
医療情報
ピロリ菌から胃潰瘍に?
監修/北村 聖 東京大学医学教育国際協力研究センター 教授
胃と胃潰瘍の関係
胃は食べ物を消化し、栄養を吸収しやすい状態にして小腸に送り出します。
このため、胃壁(いへき)から塩酸と同じくらい強い酸である胃酸が分泌され、消化活動を行います。
胃壁からは、胃酸と同時に胃粘液も分泌されます。胃粘液には消化力の強い胃酸が直接胃粘膜に触れて損傷を与えないようなバリアー機能があります。

胃粘膜の修復ができなくなると…
健康な胃では、少しくらいの損傷は周囲の細胞がたちどころに増殖して胃粘膜を修復します。
しかし、何らかの原因で修復が間に合わないと、胃酸による消化が進み、胃壁の組織が失われた結果、「胃潰瘍」といわれる状態になります。
この原因には、ヘリコバクター・ピロリ菌による慢性胃炎や鎮痛薬(非ステロイド性消炎鎮痛薬)、ストレスなどが知られています。

アレルギー性鼻炎と言われたら
監修/北村 聖 東京大学医学教育国際協力研究センター 教授
「通年性」と「季節性」のアレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、年間を通して起こる「通年性」と一定の季節に限って起こる「季節性」の2種類に分けられます。
「通年性」の主な原因はハウスダストですが、中でも多いのはダニです。ダニ以外の原因には猫や犬などのペットが知られています。
「季節性」のほとんどはスギやヒノキ、ブタクサなどの花粉が原因です。

鼻炎は体の防御反応?
ハウスダストやスギ花粉など、アレルギーを起こす原因物質を「アレルゲン」といいます。
アレルゲンが鼻に入ると、アレルゲンの侵入を防ぐかのように鼻がつまります。また、くしゃみや鼻水という症状でアレルゲンを体の外に追い出します。
このように、アレルギー性鼻炎は体にアレルゲンが入らないようにする一種の防御反応として起こっていると考えられます。

≪鼻の粘膜断面図≫
抗体プラス肥満細胞→アレルギー反応
症状はくしゃみ・鼻水・鼻づまり
アレルギー性鼻炎の症状は、1日に何度も繰り返すくしゃみと、水のように流れる鼻水、鼻づまりが特徴です。
これらの症状は、鼻の粘膜に存在する肥満細胞と呼ばれる細胞から、ヒスタミンやロイコトリエン、トロンボキサンという化学伝達物質が放出されることで起こります。
ヒスタミンは鼻の神経を刺激してくしゃみ・鼻水に、またロイコトリエンやトロンボキサンなどは血管を刺激して鼻づまりに関係していると考えられています。

症状のタイプは薬の選び方に影響します。
くしゃみ・鼻水タイプ
鼻づまりタイプ
全ての症状が出るタイプ
B型慢性肝炎と肝臓の不思議な能力
監修/北村 聖 東京大学医学教育国際協力研究センター 教授
日本では母子感染が多い
慢性肝炎は肝臓の炎症が6ヵ月以上続く病気で、多くの場合はウイルスが原因となります。現在、肝炎ウイルスはA型、B型、C型、D型、E型の5種類がわかっています。
B型慢性肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染が原因で起こります。主な感染は血液感染などが知られていますが、日本では母子感染といって、B型肝炎ウイルスを持っているキャリアの母親から子供に感染することが多いと考えられています。

症状は
B型慢性肝炎ではほとんどの場合、自覚症状はみられません。ただし、肝炎が急激に悪化すると、疲れやすい、だるい、食欲がない、尿が黒褐色のような色になるといった症状が現れることがあります。
一方、症状が現れていないからといって治療を行わずに長期間放置すると肝硬変や肝癌に進行してしまうことがあります。
自覚症状が少ない理由
自覚症状が現れにくい理由の1つは、肝細胞の一部が壊れても残りの部分でカバーする、肝臓の予備能という能力が非常に高いためです。
2つめは、再生能力が非常に高いことです。
肝臓は、その4分の3を切り取っても、約4ヵ月後には元の大きさに戻ることができます。ウイルスとともに壊された肝細胞もただちに再生されますが、炎症が何年間も続くと、この再生能力でもカバーできなくなり、最終的には異常な組織の増加により、重い肝臓の障害が起こってしまいます。

アトピー性皮膚炎のくすり
指導/田中 暁生 広島大学大学院皮膚科
治療
アトピー性皮膚炎では、皮膚のなかで炎症を起こす細胞が活発になっているために、皮膚が痒かったり、乾燥したり、赤くなったりします。
炎症の原因の主な細胞は2型ヘルパーT細胞と呼ばれるリンパ球で、この細胞が産生する物質が皮膚のさまざまな細胞に作用して、アトピー性皮膚炎の病状を形成します。
治療薬のいろいろ
最近、さまざまなアトピー性皮膚炎の治療薬が登場し、塗りぐすり、飲みぐすり、注射薬など、治療の選択肢が増えてきました。
塗りぐすりは、従来のステロイド外用薬やタクロリムス軟膏に加えて、それらとはまったく作用の異なるデルゴシチニブ軟膏が登場しました。
注射薬のデュピルマブは2型ヘルパーT細胞が産生するインターロイキン4とインターロイキン13というアトピー性皮膚炎の病気の形成に重要な物質をブロックする薬剤で、皮膚のバリア機能の回復、痒みの抑制、皮膚炎の抑制に高い効果がありますが、値段は高価です。
副作用は重症なものはあまりないですが、結膜炎が出ることがあります。


再発・予防のための対策
皮膚炎は軽症のうちにあるいは症状が出始めたときにすばやく適切に対処することで、重症化や慢性化を予防することができます。
症状が出始めたときに塗りぐすりを正しく使って、早く治すことを心がけましょう。
炎症性腸疾患とは
指導/東山 正明 防衛医科大学校消化器内科
病気に関する基礎知識
炎症性腸疾患は、腸に慢性的な炎症が生じる原因不明の疾患で、潰瘍性大腸炎とクローン病があります。若い年代で発症することが多く、腹痛・下痢・血便などの症状があります。
遺伝要因や食事などの環境要因による腸の免疫異常が一因と考えられ、近年では腸内細菌の関与が注目されています。
それぞれ図に示すような特徴があり、両疾患とも皮膚や関節に症状がでることもあります。

≪潰瘍性大腸炎≫
左:直腸炎型
中:左側大腸炎型
右:全大腸炎型
直腸から連続する病変
原則的に大腸のみに起きる連続性・表層性の炎症

≪クローン病≫
狭窄(通信障害、詰まり)
穿孔(穴があく)
癒着(くっつく)
瘻孔(となりの臓器とつながる)
消化管のどこにでも起きる非連続性・全層性の炎症
治療に関するくすりの説明
治療は、5-アミノサリチル酸で炎症が治まらない場合、重症度に応じ副腎皮質ステロイド、アザチオプリン、タクロリムス、生物学的製剤、JAK阻害剤といった免疫をコントロールするくすりを使い分けます。
また潰瘍性大腸炎の直腸病変には注腸剤や坐剤も有効です。
食生活における留意点
食生活が炎症性腸疾患に及ぼす影響は大きく、特にクローン病では注意が必要で、脂肪分の多い食事が炎症を悪化させるため、刺激の少ないあっさりとした食事が望ましく、低脂肪で吸収されやすい成分栄養剤の使用も効果的です。
治療における留意点
腹部症状が落ち着いても消化管の炎症は持続していることがあり、定期的に検査を受け、治療を続けることが大事です。